退職D進して1年目にかかった費用

201X年に,会社員を辞め大学院の博士課程に進学(いわゆる退職D進)をしました.退職D進を検討する上で人それぞれ何らかの懸念事項が発生しますが,中でもほとんどの方が直面するのは,金銭的問題だと思います. そこで,検討している皆さんの参考になればと思い,実際にかかった費用を公開します.個々の環境によって額は異なりますが,一例として見ていただければ幸いです.

本記事の構成は以下の通りです.

もしかしたらこれまでSNSで発信している内容と重複していたり,文章表現のクセで特定可能かもしれませんが,健康保険料や住民税額は過去の収入と関係するので一応匿名ということでお願いします.

 

入学準備〜博士課程1年目にかかった費用

それではまず一番重要な諸費用を公開します.
なお,所属機関は国立大学で,分野は工学です.

費目 単価 数量 金額 備考
入学検定料

30,000 (円/回)

1

30,000

-
入学金

282,000 (円/回)

1

282,000

減免申請不許可
授業料

535,800 (円/年)

1

535,800

減免申請不許可
国民年金

195,480 (円/年)

1

195,480

一括納付
健康保険

34,920 (円/月)

12

419,040

任意継続
住民税

195,480 (円/年)

1

195,480

-

 
国民年金と住民税の金額が一致していますがこれはたまたまです.これらを合計すると,1,657,800 円 になりました.これには含まれていませんが,別途引越しや賃料などの費用がかかりました. 

以下に各費目の詳細を記述していきます.
 

費用別詳細

入学検定料

3万円なので全体から見ると大したことないのですが,これから収入が激減する人から見ればそこそこ大きな金額なので計上しておきました.
修士から博士に直接進学する人は検定料を納めなくてよいのですが,一度学外へ出ていくと3万円かかります.厳しい.

入学金

大学院の入学金です.後述の授業料と同様に免除申請を行いましたが不許可でした.
修士から博士に直接進学する人に大学院の入学金はありません.私は修士課程在籍時に所属していた研究室に博士課程学生として戻ってきたのですが,これも一度学外へ出ていくと満額支払わないといけないようです.
私は納得して支払う意思を持って入学しましたし,支払ってでも進学する価値はあると思っているので,入学金を支払いたくないとかそういうわけではないです.ただ不公平さを感じるのは否めません.そもそも会社員を辞めて博士課程に戻ってくるという状況を想定していない制度設計なのかなとは感じます.今後退職D進する人が,(修士在籍時と同じ大学院に戻ってくる限りは)大学院入学金を少なくとも多少は軽減するように改善してほしい制度です.もちろん,あらゆる手続きには人件費(事務経費)がかかりますので,0円とは言いませんが…

授業料

国立大学なら(当時は)どこでも均一の授業料でした.
正直なところ,授業料免除がD1の前期後期両方で免除不許可になった事は予想外でした.というのも,独立生計・年間収入100万円未満(預貯金をアテにした生活)という状態が,学振研究員より免除の優先順位で低いことはないだろうと思っていたからです.実際にどのような基準で審査しているのかはわかりませんが,前年の収入状況,つまり会社員時代の収入を示す書類の提出が求められたので,それが影響したと思われます.
審査基準は大学ごとに異なるでしょうが,これから退職D進する人は,授業料全額支払う覚悟は持っていた方が良いです.ありがたいことに,私はD2の期間は免除になりました.

先程の繰り返しのようになりますが,私は授業料を支払う価値があると思っているので,博士課程の授業料をタダにしろとか言いたいわけではありません.

国民年金

一括納付にすると月額x12の金額よりチョットだけ安くなるので年間一括払いにしました.学生納付特例制度を使って猶予申請も可能(審査有り)ですが,いずれは払うことになるので私はD1の時は払っておきました.D2は手持ち現金が減ってきたので猶予申請しました.この制度を使う事で支払総額と将来の年金額も若干変わるはずですが,正確な情報は個人で調べることをオススメします.
また,国民年金納付は税控除対象になるので年末調整で忘れず書いた方が良いです.

健康保険

これが高かった.何せ今まで労使折半だったものが全て自己負担になるのだから当然といえば当然.国民皆保険制度を若干恨みかけましたが,社会全体でお金を出し合って支えているのでしょうがないとは思っています.

もう退職D進を検討している人はご存知と思いますが,退職すると,これまでの保険組合を継続して利用する「任意継続」(最長で退職後2年)と「国民健康保険」を選べます.国民健康保険の保険料は自治体などを選んで収入状況を入力してネットで試算してくれるところがあると思います.大抵は任意継続の方が保険料が安くなると思います.国民健康保険は人数単位でかかるので扶養家族がいる場合は間違いなく任意継続になるかと思います.私は独身でしたが,国民健康保険の保険料が月額4万円(!)超えという試算結果が出たので,大人しく任意継続にしました.一度国民健康保険に切り替えると任意継続に戻れないので,とりあえず最初は任意継続が無難かなと思います.
国民健康保険には収入激減等による保険料減免制度がありますが,これは不可抗力的な収入減ではなく学生になるという計画的収入減でも審査が通るものなのでしょうか?D1のうちに調べて役所に聞いておけば良かったなと思いました.

また,会社勤めなら会社が概ねやってくれるのであまり気を配らなくてもよいですが,健康保険も年末調整でちゃんと書きましょう.

住民税

これも給与から天引きでしたが給与自体がなくなるので用紙が届きます.住んでいる(いた)自治体と前年の収入によって納付額は変動するはずです.授業料とか健康保険に比べたらこれぐらい払ってやるかという感じにもなりますが,やはり収入が少ないとこのような金額でも敏感にならざるを得ません.

博士課程在籍時の収入

研究に集中するために退職D進したため,学外でアルバイトなどはしませんでした.大変ありがたいことに,D1からRA(リサーチアシスタント)として月数万円,年間で50万円程度?いただいておりました.また,指導教員が獲得した研究費の中で,データ処理やデータ解析のアルバイトの人件費として獲得したものの一部を割り振ってもらい,不定期に仕事をいただいておりました.
年収としては学振DCの半分以下でしたが,仕事があるだけありがたかったです.

学振については,DC1は申請しておりません.申請締切が5月中なので,会社員がDC1に申請するには1年以上前から退職の意思を持って申請書類を準備する必要がありますが,これはレアケースと思われます.4月時点で退職D進の意思が固まっていて予定の指導教員とも疎通が取れていれば,その年の秋入学でも良いですし…

D1の5月に申請したDC2は落ちました.悔しかったです.これを機に日本学生支援機構の貸与奨学金をD2から活用させていただきました.

D2の5月に申請したDC2も落ちました.もうこの話は終わりにしましょう.

その他

退職D進を経験した感想

大学院の博士課程で得た経験はお金には換算できない貴重なものとなり,現時点では全く後悔していません.特に良かったことは,研究のことで1日中悩んでいられるし,悩んでいる課題が例えば1年間解決しなかったとしても,(指導教員や環境によりますが)誰にも何も咎められないことです.修士課程在籍時にはあまり感じませんでしたが,会社員となってこの時間のありがたみがよくわかりました.当然修了のために多少の結果を出す事は必要ですが,原則的に好きな時間に好きな勉強・研究ができ,いつでもメールするか部屋に行くかで指導教員に相談できます.実験系の研究室ではなかったこともあり,特に自由にさせていただいた研究環境と教員の先生方には感謝しています.

退職D進の決め手となったこと

正社員を辞めるというのは,収入が減ろうが減るまいが誰しも少しは躊躇するものだと思います.そんな状況でも私が退職D進できたのは,主に以下の背景があったからだと思います.

  • 挑戦機会があるなら挑戦したいという思いがあった
  • 修了後の就職選択肢が他分野に比べて広い
  • 実家がそこそこ裕福だった

修士課程がお勉強の範疇で終わってしまって悔しいという思いが私の中でしばらく残っていました.当然,そんな人が博士課程にいってもうまくいかないと思っていたので,M2の時にD進は全く考えていませんでした.就職直後は,社会人博士をとれたら良いなと思っていたのですが,労働しているうちに,やはり仕事のことなど忘れて研究に専念してみたい,うまくいかなかったらその時はその時だ,という思いが強くなり,修士の時の指導教員に相談しました.
また,私の所属分野では民間企業が博士修了者を採用している例も多く,研究職にこだわらなければ,どこにも就職できないというケースはあまりないだろうという意識がありました.

最後の実家が裕福というのは,決して自慢したいわけではなく,裕福な家庭の生まれかどうかがD進の動機となりうる現状は健全ではないということを言っておきたかったからです.私は退職時にはまだ両親が正社員共働きというのもあり,修士課程までも不自由のない生活を送らせてもらいました.
一時期Twitterの一部界隈で「中流家庭」という言葉が話題になりました.発信元のツイートを拝読し推測する限りでは,我が家はあそこまで裕福ではないものの(推測の域を出ませんが)あの家庭に準ずる程度には裕福で,もちろん一般的には相当恵まれている部類に入ると思います.
したがって,例えば博士課程がうまくいかなくて退学してしまったり,学位取得後に就職先がなかったとしても,一旦実家に帰って1年くらい居候しつつ就職活動をする,というようなことが可能でした.とにかく何もかもダメだったら実家帰って居候させてもらおう,という保険は自分の中でやはり大きかったのではないかと思います.

幸い,有期雇用ではありますが学位取得後も空白期間なく職に就くことができました.ただ,博士課程期間全体を通して本当にお金に困った生活になりました.収入より支出の方が断然多い状態が続くのは想像以上に精神衛生上よろしくないんだなと感じました.私はもともと物欲もなくケチだったため退職時にそこそこ預貯金はあったのですが,最初に示したように学業にかかる経費+保険料+税金だけで150万円以上かかりさらに賃料と食費などの生活費ものしかかったため,一時期有り金がほとんどなくなってしまったことがありました.反省点としては,修士課程で2年間借りた無利子の貸与奨学金を就職して1年後に一括返済してしまったことです.将来自分が退職D進するかもしれないと考えている人は,無利子なら貸与奨学金はゆっくり返済していきましょう.現金を保有しているに越した事はありません.